井上ひさしさんの『ひょっこりひょうたん島』のモデルとなった蓬莱島や、『吉里吉里人』と同名の吉里吉里という地名のある岩手県大槌町。風光明媚な港町でしたが、その他の東北沿岸と同様に震災と津波で大きな被害を受け、建物の上に遊覧船が丸ごと載っかっているというショッキングな映像で有名になった所でもあります。
人口1万5000人のうち1割近い1300人あまりの方が死亡・行方不明となり、3700戸が全壊または半壊するという被害に見舞われました。
私たちがこの大槌町を訪れたのは、震災から9カ月近く経った11月の末。本格的な雪の季節が訪れる直前のころでしたが、壊れた建造物の解体・撤去作業が終わるまでには、今しばらくかかるだろうという状態。とはいえ、少しずつプレハブの店舗も建ち始めており、復興が芽生える気配が感じられます。
その日私たちが向かったのは、少し山を上ったところにある小槌地区仮設住宅に隣接するエールサポートセンター。町が建設し、行政からの委託で医療法人あかね会が運営している施設です。
チーム・レクルーとしてうかがったのは、盛岡市レクリエーション協会の相馬満枝さんと村上福導さん、そして岩手県レクリエーション協会事務局長の千葉久美子さん。センターに集まっていたのは、要支援1、2の方々ですが、皆さんとても元気な様子で、腕を使ったレクからスタートした相馬さんに、みるみる引き込まれていきます。
「じゃあ次は、片手を前に、もう一方を胸に。前に出した手はグー、胸の手はパーでやってみましょう。はいっ、よいしょー!」
うまくいかず失敗するたびに、おばあちゃんたちの朗らかな笑い声がわき起こります。
見ていて気付いたのは、参加者のほとんどが女性なのですが、皆さんとても身なりをきれいにされていること。服装も髪型もきちんとしていて、お化粧をされている方もいます。実はこれには理由がありました。
「実は私たちは、来てくれた方々の写真を撮るようにしているんです」
そう語るのはエールサポートセンターの菊池多佳子さん。
「撮った写真は、帰りにプリントアウトして渡してあげるんですが、そうすると自然と、きれいにしなくちゃという気持ちになってくれるんです。『次は口紅っこつけてこよう』なんて(笑)」
写真を撮ることには、もう一つ理由があります。
「写真を撮るときは、『はい笑って、ピース!』と声をかけて、ピースサインをしてもらいます。そうすると、不思議と口角が上がって笑顔になれるんです」
確かに写真を撮ると、皆さん撮られなれているという感じで、さっと笑顔を浮かべてくれます。菊池さんたちの写真を撮るというアイディアが、笑顔のリハビリになっているのでしょう。
「それから、釜石のスーパーまでお連れするのも、皆さん楽しみにしています。100円ショップとか、買い物をしながら商品を見て歩く、というだけでも大切なレクリエーションなんです」
この日はこの後、タオルを使ったレクリエーションと、グループに分かれての「スキヤキ・ジャンケン」などを行いました。ベテランらしい巧みな話術の相馬さんと、元気でコミカルな村上さん。みなさん気さくに打ち解けて、おばあちゃんたちからも冗談が飛び出したりと大盛り上がり。帰るときには2人とも握手攻めにあって、まるでタレントのような扱い。「こんなに笑ったのは久しぶりだよ!」「感謝感激だよ!」と声がかかっていました。
おしゃれをする、買い物をする、そして大きな声で笑う。そんな当たり前の「日常」を、被災された方々は、一つひとつ取り戻そうとしています。だからこそ今、笑いを生み出すレクリエーションが果たす役割は大きいのではないでしょうか。そんなことを実感した大槌町訪問でした。